2010年9月10日金曜日

第6回公開講座報告要旨(2010年7月4日実施)

7/4の第6回公開講座報告がまとまりました。

■国分寺・名水と歴史的景観を守る会第6回公開講座報告要旨
  日時:2010年7月4日(日)14:00~16:30 会場:国分寺労政会館3階第3会議室
  講師:川端良子さん(東京農工大学国際センター准教授、当会会員)
  演題:旧ソビエト連邦の農業政策による中央アジアのアラル海の縮小
  会費:1,000円 主催:国分寺・名水と歴史的景観を守る会
  参加者:28名(会員12名、非会員16名)


・川端さんはアラル海のあるウズベクスタン共和国とカザフスタン共和国の国情について美しい映像で解りやすく紹介し、アラル海縮小の開始から、塩水濃度上昇が起るまでの時間に湖の中でどの様なことが起ったかを述べられました。

・アラル海は流出河川のない内陸閉鎖湖で、大アラル海と小アラル海に分かれている。シルダリアが流入する北の小アラル海(カザフ共和国)とアムダリアが流入する大アラル海(カザフとウズベク)である。かつて世界第4位を誇っていた当時の湖面積は北海道と同じくらいの大きさで、水深は琵琶湖の二分の一強。しかし1960年代から縮小を続け、現在では回復が望めないほどの状態になっていることが、衛星写真を見るとよく判る。

・その原因は、1950年代に始まった旧ソビエト連邦の農地開発、綿花生産を意図した「緑の革命」と称する上流地域での大規模灌漑農業計画に基づく流入河川からの大量取水です。

・アラル海は砂漠の中にあり、お金にならない湖だったが、1950年代のソビエト連邦科学アカデミーの経済学者は、砂漠を緑化し、綿花栽培や小麦栽培をすれば、漁業収入の5倍以上の収入になる。そのためにアラル海がなくなっても構わない。もし、問題が起これば、北側の川から水路を作って水を流せばいいとの研究論文を発表していた。

・すでに40年以上に及ぶ大規模灌漑農業の結果、アラル海の砂漠化が進み塩害を引き起こし、かつて生息していた生物たちはほぼ全滅、湖の面積は半分以下に縮小、海岸線の後退、塩分や重金属濃度の上昇による漁業の壊滅、残留農薬による飲料水汚染など深刻な環境汚染問題を引き起こしている。

・もはや大アラル海の回復は不可能であるが、小アラル海はまだ回復の見込みがある。2005年小アラル海を救うために両アラル海の境に大規模堤防を設けシルダリア側の流量回復に努めたため、小アラル海の河口付近では徐々にではあるが漁業が行われるようになり、湖岸では植林が進んでいる。また、汚染飲料水による健康被害を改善するため、使用している農薬を人体に安全な化学肥料に変えるなど様々な試みがなされつつある。

・大アラル海の消滅は止むなしというのがウズベキスタン共和国の基本姿勢。綿花栽培をはじめとするアムダリア流域での農業や都市部への水供給を犠牲にできないこと、干上がった湖底からの天然ガス開発が開始され、新たな国家収入が見込まれることなど国家としての生存を優先せざるを得ない事が理由。

・大規模な自然改造を人間が行おうとした結果、アラル海は縮小するべくして縮小したとのことです。これらの環境問題の解決には科学面だけでなく、政治や経済面からの努力が必要だと強調されました。

・その一環として、2009年9月から東京農工大学はJICA(国際協力機構)の支援事業により、ウズベキスタン国立養蚕研究所と共同で「ウズベキスタン共和国シルクロード農村復興計画―フェルガナ州における養蚕農家の生活向上モデル構築プロジェクト―」を開始した事を紹介。

・川端さんは学生時代からアラル海に関心を持ち、1989年から調査を開始。アラル海の研究で博士号を取得されています。

・質問1.農業用水に地下水は利用しないのか?→水深10メートルくらいの被圧地下水を電気で汲み上げている。表層地下水を飲料にしているが、水質は良くない。素掘りの灌漑水路には葦が生えている。水田と言っても輪作するため、葦と一緒に生え、日本の田圃の様ではない。

・質問2.冬用に溜池を作ってはどうか?→アラル海を見捨て、アラル海の南地域に干潟を作り、営巣地にしている。溜池を作って農業をしようとする気はない。

・質問3.綿花の代わりに、サボテンなど乾燥地に強い植物を植える計画はあるか?また、木材から紙を作ってはどうか?→サボテンなどは不可能。南アフリカ原産のアイスプラントはある。トマト等果樹はおいしい。ドライトマトも大変美味である。桑から作った桑の紙サマルカンドペーパーがある。

・質問4.日本人の思う川と中央アジア人の考える川との違いは?→湯水のような感覚は無いが、噴水は大好きです。

質問5.日本の農業をどう思うか?→自給率50%を目指すべきで今が立ち上がる時期ではないか。

・公開講座当日の川端さんは、ご講話にふさわしいウズベキスタン共和国フェルガナ州マルギラン市特産のマルギランシルク製の衣装で登場。色は絹独特の光沢が大変美しいピーコックグリーンでした。熱のこもったご講演と質問を時間通り終え、16時30分に閉会しました。

・参加者からは「アラル海縮小の歴史、原因を科学者の立場から分析してもらい大変参考になった」「アラル海の縮小という状況の中で地元の人々がその環境に順応して懸命に生活を建てなおそうとしている現実が良く分った」等の感想が寄せられました。

・名水の会からの公開講座講師への謝礼金は、全額名水の会へご寄付くださいました。川端先生のご厚情に心から深謝いたします。ありがとうございました。

・公開講座終了後、場所を国分寺市南町3丁目の「居酒屋せが和」へ移し、17時から20時まで懇親会を開催。和やかな愉しいひと時を過ごしました。懇親会参加者は15名。

ご講話を伺い、今求められている大きな課題は、地球全体に求められている持続可能な発展への知恵と行動だと痛感しました。